ラスト プリンス
「彼女がいたのに、このお見合いの所為で別れちゃって。 でも、この後会いに行くって言ってたけど……。 大丈夫かなぁ」
よほど心配なのだろう。 言葉の節々に、自分を責める思いと不安そうな色がにじみ出ている。
………なーんか。ムカつくんだよね。
こんなにも近いキョリに俺がいるのに、さっき見た野郎のことで頭がいっぱいな梨海に。
「人の心配より自分の心配すれば」
ぎっと、バックミラー越しに梨海を睨めば、今分かったというような表情を返してきた。
「そ、そうだよ! ななな何で、あたし耕太の車乗ってんだろ。 しかも、若干耕太不機嫌だしぃっ!!」
『あたし』に戻ってるし。 なんなんだよ、こいつ。 理解不能。
「誘拐?! 拉致?! 監禁?!」
「ずいぶんと物騒な言葉だな」
「あっ!! もももももしかして、ホントになぶり殺す気っ?!」
「……さあな」
ひぃっ、と梨海が息を呑む音が車内に残る中、アクセルを踏む。
家まであと10分ほどになった時、「……あっ」と小さく呟く声が聞こえた。