ラスト プリンス

「ん? 梨海?」

「あ、いや、その……」

 口籠もる梨海の様子が変。それに、さっきは握っていなかった携帯を左手で持っている。

 耳を済ませば微かにバイブレーションが空気を伝わって聞こえている。

「電話か? 遠慮しないで出れば?」

 ぎゅっと携帯を握り、それに視線を落とす梨海を一瞥した。

「あたしね――」

「いいから。 お前が家の誰かと話してんの聞いたことあるんだし」

「えっ……な――」

「出ろって言ってんだろ!」

 一瞬、間が合って。 それから「……はい、もしもし」と聞こえた。

「申し訳ありません。お父様とお母様に恥をかかせてしまったことは―――え? はあ」

 謝罪の言葉を並べるつもりだった梨海は、なんだか出鼻を挫かれたらしい。

 妙な声音で返事をしている。

 それにしても、俺より切り替えがスムーズだよなあ。 声のトーンや話し方、スピードまでが、まるで別人。

「……はい。マサノリさんには後でお詫びいたします。 ……今ですか?」

 何か思案しているのだろう。 左手が前髪に触れた。

「とても信頼出来る方と一緒にいます。 思ったより、優しい方ですから心配いりません」

 ぱちん、と携帯を閉じる音が聞こえてから、「バレてたか……」と呟く梨海は、再び前に身を乗り出した。

「どっちがホントだと思う?」

 どっちのてーに入ってる?、と無邪気な子供を思わせる口振り。

 その声音は、なんだか“友達”を思い起こさせるような調子だった。

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