ラスト プリンス

 ぐっとあたしの身体に体重がかかり、あっさり身体の自由が利かなくなった。

 耕太の呼吸が耳元で感じられる。

「ばーか。抱くわけねえだろ。 ……だから、泣くなよ……」

 ぎゅっと優しく、でも力強く抱きしめる耕太から考えられないくらいの細い声。

 ……だから。それがいやなの。

 そんな風に優しくするから勘違いするんだよ。 もしかしたらって。

 だから、あたし。泣くことしかできないんじゃない。

 『泣くなよ』って言うなら、言うくらいなら、あたしを抱きしめないで。

「………ばかあ。 こうたのばかあぁぁ」

 安心感からか次々と涙が押し寄せ、目尻から頬へ伝う。

 それでも。ああ、やっぱり、と思う自分がいる。

「泣いてないで早く着替えろ。 ほら」

 あたしの上から退いた耕太は、再び灰色のスウェットを投げた。

 体にかかったそれを起き上がって見つめる。

「……………たい」

「ん? なに」

「………かえりたいよ」

 ぎゅっとスウェットを握りながら呟いたあたしの声は酷く擦れ、震えていた。

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