ラスト プリンス


 何がそんなにツボだったのか分からないけれど、頭を上げたあたしが見たのは、村上さんの優しい笑顔。

 村上さん。素敵過ぎます。その笑顔。

 釣られて頬が緩むのを感じながら、村上さんの笑顔に酔いしれる。

「梨海ちゃんって呼ぶけどいいかな?僕のことは“社長”って呼ばないでね。あ、村上さんもダメ」

「じゃあ、カイさん?」

「別に呼び捨てでもいいよ」

「そんなわけにはいきませんよ」

 あたし、耕太よりカイさんのこと好きになりそう。

 既婚者に想いを寄せることは、不倫にはならないわよねぇ?

 だったら、どっぷりこの笑顔にハマって、想いを寄せて、残りの2ヶ月過ごせばいい。

 耕太との賭けだって、あたしは耕太を好きにならなくていいんだもの。

 ガチャリ、と。
 開いたドアの先に、数枚のプリントに視線を落とした耕太がいた。


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