ラスト プリンス
「言っとくけど、本気になる前に止めとけよ」
コーヒーを一口飲んで、出てきた言葉は、お礼なんかじゃなくて。
何のことよ、だなんて言えないあたしは、黙ったまま、ソファーに座った。
「……別に好きじゃないもん。 ただ、かっこいいなとは思うけど」
「惚れてるような顔してたけど」
「そんなわけないじゃない。確かにカイさんは、優しいけど結婚して子供も産まれる。 あたしは、人の幸せを奪うような冷酷な女じゃないの」
そうよ。 自分が少し不幸なだけで、人の幸せを奪っていい、だなんて聞いたことないわ。
別に、カイさんは憧れであって好きではない、と思い込んでるだけかもしれないけど。
既婚者だってことで、結構諦めもついてる。
「ああいう彼氏がほしいっていう理想なんだろうな」
ぽつりと呟いた、自分でも口にしたかどうかさえ曖昧な言葉を聞いたのかは分からないけど。
「だったら」と眼鏡を外した耕太が、あたしの頭に左手を乗せた。
「一回、俺に抱かれてみる?」
耳を掠める吐息と低い声に背筋がぞくりとする。