ラスト プリンス


 じわりじわりと寒さが身に染みる中、あたしはとぼとぼと赤いポストを目指す。

 ポストはバス停の少し先にあり、お店からは数分で到着した。

 無事、茶封筒をポストに投函したあたしは、両手を息で温めたり、ポケットに入れてみたりととりあえず寒さから逃げ回る。

 やっぱり、マフラーはしてくるべくだったわ………っ?!

「ひっ……」

 背中からじわりと温かさが伝わる。

 えっ……道端で後ろから抱きしめられるって、不審者、よねぇっ?

 痴漢にはあったことあるけど、不審者との遭遇は初めてなんですけどーっ。

 怖さと寒さで固まったあたしは、悲鳴をあげることも、助けを求めることも出来ずにいた。

「……そんなに怖がるなよ」

 不意に聞こえてきた声は。
 どこか安定していて、あたしを落ち着かせようとするもの。

 ……いやいや。

 そういう事言うなら、後ろからの襲撃はしないほうがよろしいんじゃなくって?

 普通、怖がりますよ………って、あれ?


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