ラスト プリンス


 聞き覚えのある声に顔を上げれば、さらに強い力で抱き寄せられた。

「ねぇ、梨海」

 …………。
 聞き覚えがあるどころじゃないわ。

 それに、“聞き慣れた”って言ったほうがしっくりくるってどうなのよ。

「何か用ですか?……真司(しんじ)先輩」

 もう、当て付けにしか聞こえない声音で言い放ったあたしは、手早く“真司先輩”の腕から逃げた。

「ずいぶんと余所余所しいだね。少し前まで、あんなに仲良かったじゃん」

「いつの話ですか?あたし、忙しいので」

 踵を返して、道を突き進みBELLに向かう。

 なのに、こいつはっ……。

「一緒のベッドで同じ朝迎えた仲じゃん」

 あたしの腕を掴み、引き寄せ、耳元で怪しく囁いた。

「………っ。 離してっ! ………ひっ」

 くすり、と笑ったこいつは、あたしの耳たぶを舐め、そのまま首筋までも、舌を這わせた。

 全身に電流が流れたみたいに、あたしの身体は小さく跳ねる。

「……いやっ」

 力を振り絞って腕の中から逃げ出したあたしは、少し後ろに下がって睨み付けた。


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