ラスト プリンス
ほんの数分前。少しでも、よりを戻してもいいかな、なんて思ったあたしがバカだった。
もしかしたら、あたしは。
別れても真司のことが好きだったから、誰に告白されてもなびかなかったのかも。
くっと唇を噛み締めて、涙を堪える。
こんなやつのために、泣くなんて、もったいないわ。
「ふざけ――」
「まだ、終わらないんですか?」
あたしの言葉を遮って聞こえた声は、少し呆れ気味の耕太のもの。
近づく足音に振り返ることも出来ないあたしは、必死に涙を飲み込む。
「またお前……」
また? またって何よ。
「店の前で痴話喧嘩ですか?縁起が悪いのでやめて下さい。それと、梨海の方がずいぶんと大人ですね。あんたは猿以下」
「は?てめぇ、喧嘩売ってんのか」
「事実を言ってるまでですよ。あんたの頭じゃ、“七瀬梨海”を理解出来ない。ま、本人はあんたなんかに理解してほしくないと思いますけど」
抑揚のない言葉は、真司の顔を曇らせていく。
あたしは、ただ、何も言えなくて、耕太に支えられやっと立っていた。