ラスト プリンス
「えっ?七瀬さんどうしたんですかっ?」
受付の遠藤さんが慌てた様子で耕太に聞いていて、あたしは「すみません」と謝った。
「店に帰ってくる途中で具合が悪くなったみたいです」
「そうだったんですか。七瀬さん、お大事に」
あたしが軽く会釈をしたのを見た耕太は、社長室に向かうのか、白い扉を開き階段を上る。
階段を上りながら、ため息を付いた耕太は。
「重い」と一言。
「……うるさい」
「あー、腕が取れる」
「うるさいって……言ってるじゃ…ない」
今にも泣きだしそうなあたしの声は震えていて、うまく言葉が繋がらない。
こんな弱い自分を見られたくなくて、俯く。
「我慢しろ」
頭の上から聞こえる声に、小さく頷き、ぎゅっと目を瞑る。
ドアが開閉する音と、何かの上に下ろされた感覚があり、顔を上げた。
「いいぞ」
耕太は精一杯といった感じの優しさを詰め込んだ瞳をあたしに向け、ぽんぽんと頭を撫でる。
長机に下ろされ、下から耕太を見上げるあたしは、物凄く驚いた。