ラスト プリンス
「あ、そうそう。ユキちゃんからこんなのが届いてたよ」
「あ? ユキから?」
「地中海のポストカードかなぁ」
「そういえば、地中海クルーズとか言ってたな。俺も誘われたけど断った」
はあ、とため息をつき天を仰ぐ。
ポケットから箱を取出し、それをくわえた。
「梨海ちゃん寝てるんですけど」
「……ああ、そうだったな」
火を点けそうになった煙草を箱に戻し、腕時計を一瞥する。
時刻は午後7時10分前。
サーバーからコーヒーを入れ、ソファーに座る。
すやすやと気持ち良さそうに眠る梨海の顔を見ながら、マグカップに口をつけた。
肌は綺麗だし目鼻立ちもはっきりしてんだから、化粧なんて必要ないだろ。
むしろ、化粧をすればするだけ、ガキの反発にしか思えない。
初めて会った日、俺はただの好奇心で梨海の素っぴんが見たかった。
あんだけ塗りたくったり、目が大きく見えるなら、その皮の下は大したことないかそれ以下。
そう決め付けてたのが悪かった。
だから、あえて素材を引き立たせるような真逆のメイクを施して、自分の腕を確かめてみたんだ。