緑の魔法使い
「そんな事はありません!どちらとはいえない約束ですのでお名前は言えませんが、どの病院にも治療は無理だと言われた難病を僅か数日で治したどころか、その数日の合い間に生活に差し障りもないまでの治療を施したと当人からこちらのお話を窺いました!
 是非お嬢様の様子を見るだけでもよろしいのです。どうか・・・」

「もう良い。私の体は医者で事足りると言う事なのだ。あまり困らせるではない」

漆黒の艶やかな黒真珠のような黒髪を靡かせながら、美少女と言いたい彼の主は長いスカートを静かに揺らめかせながら車から降りてきた。
椚の木の木陰で彼女は帽子を取り頭をひとつ下げる。

「うちのものが大変な失礼をしました」

鈴を転がすような愛らしい声と、日が当ったことのないような病弱なまでの白い肌。
大事に大切に育てられたと一目でわかるくらいの愛情を受けて育てられたのだろうと言う気品と、俺と同じくらいの年齢のはずなのに凛と僕を諭す度胸は主と立つには相応しい人格を備えていた。
ただ、難を言えば、その上げた顔は酷くかさついていて、長いスカートから僅かに覗く両足も、何処か妙な感じがした。

「お構いなく。ですが、ここまでさぞ長旅だったでしょう。お茶でも飲んで休憩なされてはどうです?」

家へと向かいながら促すも反応は今ひとつ鈍い。

「そちらの運転手さんも。車は敷地内に止めてどうぞおあがり下さい」
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