緑の魔法使い
ゆっくりと口紅をつけてないにもかかわらず赤く艶やかな唇が開いた。

「ご家族の方は見えないのですか?」
「残念ながら蒼河には俺しか居ません」
「ではあなたが?」
「はい?」

何でしょうと小首を傾げれば伝わらない会話に少女はイライラと何か言いたげな口をぐっと引き締める。

「こちらにはどんな病も治すというお医者様がいらっしゃると聞きました」

さっきのやり取りをもう一度繰り返す。

「失礼とは思いますが、この辺境にお住まいで漢方をお作りになるとお聞きしております」

ふーん。そういう風に広まっているのかと噂を聞く。

「で、あなたはそんな噂を信じたの?」

普通信じるか?なんて鼻で笑いながら、正座していた足を崩し、自分用に入れたお茶を啜る。
少女は俯き唇を噛み締めながら正座した膝の上の手をぐっと握れば、急に立ち上がり、白いレースのワンピースを躊躇いもなく脱ぎ捨てた。
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