【続】俺様王子と秘密の時間
あたしは無我夢中で走った。
廊下を駆け抜ける。
息があがって苦しい。
同時に、泣きそうになった。
誰も居なくなった教室まで走り、窓にもたれるように背をつけた。
これはきっと全部、嘘。
あたしは荒い息と乱れた心を落ち着かせるように言い聞かせる。
無意味なことだとわかっていても、そうすることしか出来なくて。
「シイ――!」
ふいに聞こえた声に顔をあげれば、あたしと同じように息を切らした羽鳥が教室の中へ入ってきた。
ウェーブの髪が鮮やかな夕陽のオレンジに染まる。
「ヤっちまったって言ったけど、んなことねぇって」
あたしの真ん前まで来る羽鳥から目を逸らし、くるりと身体を回して背を向けると窓の外を見た。
「……アイツが好きなんだろ?」
千秋とは違う低い声音。
掠れる声で呟いた羽鳥。
あたしは唇を噛みしめ沈黙した。