【続】俺様王子と秘密の時間
つい口から漏れた声はとても正直だと思う。
あたしの声に反応した黒澤拓海と涼くんも、同じように塔屋に顔を向けたのが視界の隅でわかった。
あたし達は今同じ場所を見てる。
同じ“人”を見てる……。
塔屋からこっちを見下ろすその人は、雲の隙間から顔を出し始めた太陽の光を浴びて綺麗に見える。
ううん。
綺麗に見えるとかじゃなくて、彼はそういった雰囲気を放つ人だ。
「これこそまさに最悪のパターンだね。巻きこまれるのはごめんだから、僕はこれで……」
涼くんの声は耳に入っていないに等しいけど、ドアが閉まる音でこの場から立ち去ったと理解した。
目線を合わせている時間が何十分にも感じる。
だけどそれはほんの一瞬で。
小さな塔屋の上で分厚い本を拾い上げた彼はそこから降りてきた。
「ずいぶん楽しそうだな?」
冷淡な笑み。
ブラウンの瞳が忌々しげに歪む。