【続】俺様王子と秘密の時間
――バタバタッ
走り去っていく足音が響いた。
足音が完全に聞こえなくなったから、あたしは静かに目を開けてベンチに座り直し、思考を働かせる。
肩が小刻みに震えてしまっていたのは、寒いからじゃなくて。
ポタ……と溢れ落ちた涙のせい。
誰かにキスをされた。
髪の毛を撫でて、赤い刻印をなぞって、あたしにキスをしたのは。
“誰”か、なんて……。
寝たフリをして目を瞑っていたってあたしにはわかってしまった。
わかってしまったからきっと涙が溢れたんだ。
気づかなければよかった。
気づきたくなかった。
キスをした人の正体なんてわからないままでいられたら、こんなに胸が痛むことはなかったね……。
“彼”の笑顔が浮かんできた。
今はそれが痛くて痛くてどうしようもなくて。
ここからしばらく動けずにいた。