【続】俺様王子と秘密の時間


なにも言えなかった……。


シトラスの香りが羽鳥の身体中から漂う。

爽やかな匂いが染み付いた羽鳥のワイシャツに、あたしの頬がピタリとくっついていた。



「アイツにだけはぜってぇ渡したくねぇ」


頭の中で何度も反響する。

アイツが誰かなんてすぐに理解出来てしまったから、余計になにも言えなくなってしまった。



「なんでオレが遠慮しなきゃならねぇんだ……。オレだってずっとシイを見てた……」


まるで独り言のみたい呟いた。

震えた羽鳥の声は微かにあたしの髪を揺らす。



「オレじゃダメなのはわかってんだ……」


痛みを押し殺すかのような羽鳥の声は、あたしの気持ちに重くのしかかり、激しく乱していく。



「だから」


言いかけて続きを呑みこむ羽鳥。

 

< 543 / 658 >

この作品をシェア

pagetop