【続】俺様王子と秘密の時間
なにも言えなかった……。
シトラスの香りが羽鳥の身体中から漂う。
爽やかな匂いが染み付いた羽鳥のワイシャツに、あたしの頬がピタリとくっついていた。
「アイツにだけはぜってぇ渡したくねぇ」
頭の中で何度も反響する。
アイツが誰かなんてすぐに理解出来てしまったから、余計になにも言えなくなってしまった。
「なんでオレが遠慮しなきゃならねぇんだ……。オレだってずっとシイを見てた……」
まるで独り言のみたい呟いた。
震えた羽鳥の声は微かにあたしの髪を揺らす。
「オレじゃダメなのはわかってんだ……」
痛みを押し殺すかのような羽鳥の声は、あたしの気持ちに重くのしかかり、激しく乱していく。
「だから」
言いかけて続きを呑みこむ羽鳥。