運命
第2選択 ≪神埼の選択≫
神埼家に朝日が差し込む。
汚いとは言えないが、綺麗とも言えない、とても普通の家。それが神埼家である。
「実。母さん先に仕事行くからね」
実と呼ばれた少年が答える。
「分かったよ…分かったから俺の部屋に勝手に入ってくんなよ…」
布団からシッシッという動作で現れた片手から発せられた声に母は呆れ顔で、じゃぁ遅刻しないでね、という声とともにドアを閉めた。
それから続く約30分の沈黙。
掛け布団から手が伸び、目覚まし時計を鷲掴んだ。それが布団の中へと引きずり込まれる。途端に、掛け布団が荒々と宙を舞った。
「やっべ!」
神埼 実である。
神埼家には父と呼ぶ存在がいない。実がそう呼ぶべき人間は実が生まれる前に死んでいる。通勤途中の交通事故により即死だったそうだ。
とは言うものの実感のない実にはどうでも良い事である。
「今日早く起きてテストの勉強するはずだったのに…あのクソババァ…」
文句を並べながら、実の体は紺色の制服に着せかえられていく。
寝ぐせが完璧につけられた髪の毛に水を乱暴につけ整えると、玄関へと向かった。
「鍵…鍵…」
いつも鍵が置かれているはずの場所に鍵がない。こんなときに…と涙目になりながら鍵を探す。ふと視線を背後に向けると、父の遺影の近くに鍵が無造作に置かれていた。
「こんなときにしゃしゃりでてくんなよ…クソジジィ…」
鍵を取ろうと手を伸ばすと、頭上から何かが降ってきた。降ってきたというより、置かれたといったほうがよい感覚がした。後ろを振り向いても誰もいない。頭からそれを取る。筒状に丸められた古ぼけて黄ばんでしまっている紙だった。実はそれを広げてみた。
≪選択≫1.以下の問いに答えよ
私立霞ヶ浦高等学校において実施される古典の試験はいつ開始されるか。
① 1時限目 ② 2時限目 ③ 3時限目 ④ 4時限目 ⑤ 5時限目 ⑥ 明日に延長 ⑦ 中止
筆記用具:鉛筆のみ
制限時間:私立霞ヶ浦高等学校の1時限目授業開始の鐘が鳴り終わるまで
実はなんとも言えない顔をして、それを眺めていた。
こうしてはいられない。遅刻ギリギリなのである。早く行かなくてはバスに乗り遅れる。
それを無意識にポケットに突っ込んだまま、実は玄関の扉に鍵をかけた。
汚いとは言えないが、綺麗とも言えない、とても普通の家。それが神埼家である。
「実。母さん先に仕事行くからね」
実と呼ばれた少年が答える。
「分かったよ…分かったから俺の部屋に勝手に入ってくんなよ…」
布団からシッシッという動作で現れた片手から発せられた声に母は呆れ顔で、じゃぁ遅刻しないでね、という声とともにドアを閉めた。
それから続く約30分の沈黙。
掛け布団から手が伸び、目覚まし時計を鷲掴んだ。それが布団の中へと引きずり込まれる。途端に、掛け布団が荒々と宙を舞った。
「やっべ!」
神埼 実である。
神埼家には父と呼ぶ存在がいない。実がそう呼ぶべき人間は実が生まれる前に死んでいる。通勤途中の交通事故により即死だったそうだ。
とは言うものの実感のない実にはどうでも良い事である。
「今日早く起きてテストの勉強するはずだったのに…あのクソババァ…」
文句を並べながら、実の体は紺色の制服に着せかえられていく。
寝ぐせが完璧につけられた髪の毛に水を乱暴につけ整えると、玄関へと向かった。
「鍵…鍵…」
いつも鍵が置かれているはずの場所に鍵がない。こんなときに…と涙目になりながら鍵を探す。ふと視線を背後に向けると、父の遺影の近くに鍵が無造作に置かれていた。
「こんなときにしゃしゃりでてくんなよ…クソジジィ…」
鍵を取ろうと手を伸ばすと、頭上から何かが降ってきた。降ってきたというより、置かれたといったほうがよい感覚がした。後ろを振り向いても誰もいない。頭からそれを取る。筒状に丸められた古ぼけて黄ばんでしまっている紙だった。実はそれを広げてみた。
≪選択≫1.以下の問いに答えよ
私立霞ヶ浦高等学校において実施される古典の試験はいつ開始されるか。
① 1時限目 ② 2時限目 ③ 3時限目 ④ 4時限目 ⑤ 5時限目 ⑥ 明日に延長 ⑦ 中止
筆記用具:鉛筆のみ
制限時間:私立霞ヶ浦高等学校の1時限目授業開始の鐘が鳴り終わるまで
実はなんとも言えない顔をして、それを眺めていた。
こうしてはいられない。遅刻ギリギリなのである。早く行かなくてはバスに乗り遅れる。
それを無意識にポケットに突っ込んだまま、実は玄関の扉に鍵をかけた。