運命
家の前に引かれた一本線の坂道を猛然と走った。
毎日の日課であるタバコ屋のおばさんとの挨拶も忘れ、ただゴールに向けて走った。
無我夢中の実は、角から現れる人影に気付かなかった。
まさに文字通りあっと言う間も無く二つの影は同極の磁石のように反発した。
お互いに盛大に転倒した。

「痛っ…」

実は同極の片割れに視線を向けた。

「…すいません…大丈夫ですか…」

起き上がろうとしている姿は、女子、そのものだった。
同年代の異性にあまり慣れていない為、顔を伏せる。

「だ、大丈夫…」
「血が…」

手から滴る血を拭こうと女子はハンカチを取りだした。
実はその手を払いのけ、すぐさま起き上がりゴールへ再び目指した。

「さっきの子…ケガしてなかったかな…」

そんな心配も、ただの雑念にしかならなかった。
走ること数分、ゴールへとたどり着いた。
丁度目的のバスが発車しようとしていた。
息が切れながらも、肺から声を絞り出した。

「待って…!」

バスの運転手はその声に気付くと、もう一度ドアを開けた。
この時間帯はバスの中は空いている。
実はその時間帯を狙っていつも登校している。
同じ学校の生徒でごみごみしたバスを嫌うからである。
そして、実は迷うことなく、自分のお気に入りの席である乗車口対角にある最後尾の端を見る。

「あれ…」

珍しく人が座っていた。
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