運命
それは黒髪の小顔な女子だった。
実はその服装に納得した。

「白百合か…」

白百合とは、霞ヶ浦高校の近くにある、白百合学院高校の事である。霞ヶ浦高校の生徒の間では、≪金百合≫と呼ばれているように、世間一般的に言う『お嬢様学校』である。
実は渋々最前席の乗車口徒歩2歩の席に座った。

運転席のバックミラーに少女が映っている。
目が合わないように下を向いていた実は自分のポケットに何かがあることに気付いた。

「これ、さっきのやつか…?」

ポケットからそれを取りだすと、やはり予想した通り、先程父の遺影の前で発見した紙だった。もう一度それを開けてみる。

≪選択≫1.以下の問いに答えよ
私立霞ヶ浦高等学校において実施される古典の試験はいつ開始されるか。
① 1時限目 ② 2時限目 ③ 3時限目 ④ 4時限目 ⑤ 5時限目 ⑥ 明日に延長 ⑦ 中止 

選択せよ → [1] [2] [3] [4] [5] [6] [7]

筆記用具:鉛筆のみ
制限時間:私立霞ヶ浦高等学校の1時限目授業開始の鐘が鳴り終わるまで

「選択せよ…?そんなの書いてあったか…?」

実は不思議に感じたが、慌てていたせいだろうと思った。

「この解答番号…もしかして、マークシート方式なのかな…」

マークシート―
それは問題の解答に用いる方法の一つ。
正解と思われる番号が書かれた括弧内を鉛筆で塗りつぶすというもの。

「暇潰しにやってみよ…かな…」

実は鞄にしまわれているペンケースから指定されたとおり鉛筆を取りだすと[7]を塗りつぶした。

「本当に中止になってたらなぁ…って、本気にしちゃだめか」

実は紙をくしゃくしゃと握り潰した。
その時、紙から煙が上がった。小さな悲鳴を漏らすと同時に紙は燃えて無くなっていた。
実がバックミラーをちらりと流し見る。
白百合の女子がこちらをチラチラ伺っていた。

「趣味の悪いイタズラだ…」

朝から滅入る物に出くわしたなと実は自分の不幸を呪った。
丁度バス内にアナウンスが鳴った。

「霞ヶ浦公園前、霞ヶ浦公園前です。」

やっとのことで実は、バス亭に降り立った。
そのとき不思議な事に気付いた。

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