龍の世界
その時、若桜さんが口を開いた。
「麻綾」
「は、い・・・」
「あなたに、大切な話があります」
私は頷くしかなかった…
「麻綾・・・私は貴方を引き取ろうと思います…」
「─────ぇ……?」
「この桜千会に、黎雅のいた場所に来なさい。麻綾」
若桜さんの目は真っ直ぐ私を射ぬいて、目を反らす事は出来なかった
「拒否するのならばあなたをこの家から出すことは出来ません。もし承諾するならば、後の生活はこちらが負担します。…どうしますか?」
聞かれているのに選択肢は無かった。
*****
「皇也を、許してあげて。麻綾ちゃん。不器用なんだ、あの人は」
あの後、狼狽える私を柳瀬さんに預け、若桜さんは部屋から出て行ってしまった。
「はい。ココアだよ」
「ありがとう、ございます」
柳瀬さんが言うには、既に私の荷物は部屋に運び込まれ、マンションは私の荷物以外、そのままにしているらしい
「君の血縁が黎雅しかいないのは知ってるんだ。だから皇也は君を引き取ると言いだしてね」
「はい・・・」
確かに私に親族はお兄ちゃん以外いない
でも、私はこのヤクザの世界には関係のない一般人
私がいていいとは思えなかった
「大丈夫だよ。心配しなくても、ここは本家だから危ない事なんて滅多にあるものじゃないし、幹部達がいるからね」
私が心配しているのはそこじゃないのだが、柳瀬さんは安心させるように私の髪を梳いた
「皇也を、許してあげて・・・」
顔は見えないけど、柳瀬さんの声が、何だか悲しげに聞こえた