龍の世界
「来たか」
「湯川さん、すみません。お待たせしました」
私の代わりに池島さんが頭を下げる。
大変だなぁ、と思いながら他人事のように見ていた。
湯川さんは藤堂さんより年上で、黒い髪を軽く後ろに流して、大人の色気満載の人だ。
無口で、無表情で、初めは近寄りがたかったが、何故か面倒見が良くて、よく私を気にかけてくれる。
「行くぞ」
さっさと歩いて行く湯川さんに慌てて付いていく。
「お気を付けて」
池島さんに見送られ、黒塗りのベンツまで行けば、運転手さんがドアをさっと開けてくれる
湯川さんに続き、私はお礼を言って乗った。
「出せ」
湯川さんの一言で車は発進する。
車内には運転手と湯川さんと私の三人だけ。気まずくはないが、喋る雰囲気ではないので、私はボーッと流れる外の景色を眺めていた。
車は20分ほどで停車した。
「病院?」
着いた先は、辺りでも有名な大学病院。
「行くぞ」
「あ、はい…」
連れられて向かったのは、特別棟なのか、一般人は立ち入り禁止の場所。看護師と湯川さんが何かしら話していたが、すぐ歩きだした。
棟の入り口には、何故か桜千会の人達らしい“一般人じゃない人”が沢山いて、異様な雰囲気だった。
「湯川さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
湯川さんがそこに一歩足を踏み入れた瞬間、そこにいた人達全員が頭を下げた。何度見ても圧巻される光景だ。
女子部活の先輩後輩関係に近いだろうか……
「あぁ」
湯川さんの無愛想な対応はいつもの事。返事をするも、足を止める事はせず、奥へ進むのを追い掛ける
そして一つの病室にたどり着いた
部屋の前には私も見たことがある人達が立っている
「まるで、見張り・・・」
この病室の中にいる人を閉じ込めているみたいな…
するとその病室の扉が開いて、最近ではすっかり見慣れた人が・・・