龍の世界
「私たちは、あなたに同情したのではありません。あなたを引き取ったのは、私たちの罪の償う為です。黎雅に対して、そしてあなたに対して。それだけは、分かってほしい……」
「償い?」
「あなたは、何故黎雅が死んだのか、聞いたことはありませんでした」
「…はい」
「麻綾。あなたは直感的に感じていた。この裏社会で、しかも病気もしていない黎雅の突然の死……決して、“普通”の死ではないと…」
そう言った若桜さんは、いつもの穏やかな若桜さんではなく、仕事をする厳しい若桜さんでもなく、その瞳はただただ哀しみが溢れている。
私は頷くことはしなかったけど、無言は肯定と取られた筈だ。
だって、そんなの誰だって分かることだから……
「それでもあなたは“何故”なのかは決して聞こうとはしなかった」
そこまで言われれば、何となく次の言葉は予想できる…
「あなたには、話さなければなりません…何故、黎雅が死んだのか…何が黎雅を死なせたのか…」
チラと見た麗龍と呼ばれた男の子の表情は髪に隠れて見えなかった。
けれど小刻みに震える体と、指が壊れてしまうんじゃないかと言うくらい握り締められたシーツを見れば、話の先を予想するのは簡単だ…
「頭のいいあなたならもう分かっているのでしょうね……」
ふと気がつけば部屋の中は静まり返り、いつの間にか家に居たはずの御堂さんやさっきまで居なかった柳瀬さんまでいる。
いつも気だるそうな御堂さんも、優しく笑っている柳瀬さんも、みんな今はいつもと違う、凄く真剣な顔をして私を見ていた。