龍の世界

「お兄ちゃんは、こんなとこでじっとしてる人じゃないもの。きっと一人じゃ寂しくて、若桜さんとかの隣で恨めしそうに見てそう」


「そりゃ完全にホラーだな」


「ふふ。かもね……─────今の私はまだ形ある物に縋っちゃうけど…、でもいつか、いつかそれをやめられる日が来たらいいと思うの。お兄ちゃんを忘れるわけじゃなくて、前に進む時が・・・」




静かに立ち上がる。










「私も……ここに来て、─────笑って話せる日が来るように……」




泣かないと決めたのに……


笑いながら泣いている自分がいるのに気付くには少しだけ時間がかかった。







「やだなぁ…あんなに泣いたのに……」



拭っても拭っても、止まることはなくて、私は泣き顔を見られたくなくて、下を向いた。










「いいんじゃねぇの?」


「え……」



背後にいた幾斗は、いつの間にか私の隣に立って、墓石を真っ直ぐに見つめていた。







「今は、泣いたって」


「・・・どうして?」


「黎雅さんは、お前を本当に大切にしていた。こんな裏の仕事だから、いる奴は殆ど何らかの重い事情がある奴ばかりだ。来たばっかの奴は死んだような目した奴ばっかで、この世界に慣れると、今度は刃物みたいに冷たい目になって行く


でも、黎雅さんだけは違った───」





「黎雅さんは、どんなに汚い仕事をしても、必ず笑って帰って来るんだ」







「笑って・・・───?」










私の脳裏に、お兄ちゃんの笑顔が浮かんだ───











『ただいま、麻綾』


















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