龍の世界
「私のところにも……必ず笑顔で帰って来てたよ……」
「……俺は、その笑顔を奪ったんだ」
「幾斗…」
「本当は、死にたかった。でも……、一度自殺を図った時から、皇也さんは俺に見張りを付けた。病室の奴等は、皆俺が自殺しないように見張ってたんだ」
私は黙って先を促す。
「毎日が苦しかった。あの人の人生を奪った俺が、なんで生きてるんだって……だんだん感情が無くなって行くのを感じた。毎日周りに当たり散らして、自分を保つのに必死だった」
そんな時、お前がやってきたんだ────
「すぐには分からなかった。黎雅さんに写真見せてもらってたし、小さい頃に会っていたのに……─────」
「え…?」
「お前は多分覚えてないだろうな。本当に一度だけ……数時間だけ、な……」
小さい頃の曖昧な記憶の中で、お前は笑ってた。黎雅さんに甘えて、俺の手を取って、眩しいくらいの笑顔だった。
大人ばかりの、裏社会にいた俺は、ずいぶん可愛気のないガキだったから、子供らしいお前の笑顔は、本当に眩しかったんだ。
一度きりしか会えなかったけど、あの笑顔は印象が強かった。
けど久々に合ったお前は別人だった。
笑っているのに、悲しい笑顔だった。
「お前の本当の笑顔を奪ったのは俺なんだって……胸が苦しくて仕方なかった……」
まるで責められている気がして、お前に八つ当たりしたんだ。
お前の悲しみも辛さも何も考えないで────