龍の世界
「幾斗と麻綾はこちらへ来なさい。湯川は辺りを見回り、付けてくる者がいないか確認を。藤堂は一応奴らを追って下さい。恐らくは綿密なルートを作っていたでしょうから接触は無理でしょうが…」
「「はい」」
「池島は2人を連れて屋敷へ戻っていて下さい。湯川、藤堂、私は今から本家の方へ行きます。後のことは柳瀬から聞いてください」
「「分かりました」」
テキパキと周りの人相の悪い人達に指示を出す若桜さんはやはりヤクザの親分なんだと、つい見入ってしまった。
「では麻綾さん、幾斗さん。お車へ。屋敷に戻ります」
「幾斗もですか?」
「はい。病院にいるのは危険ですから。居どころが完全にバレれば、いくら護衛がいても危ないですからね」
池島さんは私と幾斗を車に乗せ、直ぐに車を発進させた。
私たちに会話は無く、私は雨に叩きつけられるウィンドウを見ながらさっきの男の話をふと思い出す。
『逃げられると思うな』
(そう言えばお兄ちゃんて椿の花嫌いだったな…)
理由は決して教えてはくれなかったけど、昔からすごく嫌いだった。
(何か関係あるのかな…)
私には到底分からない話だった。
それに、例え質問しても、答えを知る人はもういないのだから───