龍の世界
「なぁ」
「何?」
考えに耽っていると、隣から話し掛けられた。
「気にならねぇの?」
主語がないその言葉
だが私はちゃんと理解していた。
「そりゃなるけど……。聞いたら教えてくれるの?」
「………」
「あんまり話したくないんでしょ?」
私達を捕らえようとしたあの人は、間違いないなくヤクザの人。
「幾斗が話したくなったらでいいよ。言いたくなったらで」
「……ごめん」
「何で謝るのよ」
「ごめん……────」
私が何を言っても幾斗は謝るだけだった。
俯いていて、顔は見えないけど、私は座席に放られた幾斗の手にそっと自分の手を重ねた。
「お兄ちゃんは、私をずっと守ってくれてたの。私が自分の仕事に巻き込まれないよう、今思えば細心の注意を払ってた。絶対にこちらと関わらせないようにしていた。でも、私は関わっちゃったから────。きっと……怖くて耐えられなくなる時があるから…その時は、少しだけ…寄り掛かってもいいかな?……」
そこまで言って、私は自分が震えているのに気が付いた。
初めて見た銃
初めて晒されたリアルな死
決して逃げられない状況