龍の世界
麗龍は強い
普通とは違う
そう考えられているこの裏の世界の中で、幾斗はそれを裏切らなかった。
湯川には、幾斗があの場所で何をされてきたかは報告で分かっている。
幾斗を助けに直接屋敷内に乗り込んだのは黎雅と皇也と浅見だった。
皇也に抱き抱えられて現れたのは赤い長襦袢を纏い、ずいぶんと細く、白くなってしまった手と足に枷を嵌められた幾斗の姿……────
身体中に赤い印があった。
それだけで、どういう扱いを受けたのかは明白だった。
助けられてからしばらく、幾斗は部屋に入るのを嫌がり、扉を閉めようものなら狂乱したかのように泣き叫んだ。
体が拒絶反応を起こすのだ。
それは幾斗が監禁をされていた事からの拒絶反応。
そんな状態まで陥った幾斗にとって、あの過去は忘れ去りたい悪夢…
やっと取り戻した平穏な時が止まろうとしている。
そして目の前にせまるあの恐怖…
幾斗が感じている恐怖は、きっと誰とも共有は出来ない程重く、残酷なものだ…
いくら龍と言えども────
彼はまだ16歳……
だから伝えてやりたかった────
「幾斗。確かにお前が黒椿に囚われたのは事実だ。だがな、お前はもう二度と囚われたりしない」
そうゆっくりと、しかし力強く湯川が言い切ったところで幾斗が顔を上げた。
「お前は、あの時とは違うだろ?あの頃の泣いていただけのお前じゃないだろ?」
幾斗は、真っ直ぐに湯川を見つめる。
湯川はそのまま続けた。
「お前には、守るべきものがあるだろう…?」
その時幾斗は、真っ直ぐに湯川を見ていた──────