龍の世界
*****






何故か突然迎えに来た池島さんにより私は学校を早退した。






屋敷に帰ると、そこは朝の静かな屋敷から一変、多くの人が走り回り、怒鳴り声や叫び声が聞こえてくる。


母屋の大広間は怪我人で溢れていた。






私はその中に金色を探すが、どこを探しても見当たらない。



(幾斗、どこ?!




「麻綾さん、麗龍は西の離れの紅葉の間です」



「ありがとう、池島さん!」





私はそれを聞くと人が溢れる廊下を避け、庭から回って池の上に建つ西の離れへ走った。















「幾斗ッッ!!」




バンッと障子を開けると、幾斗は目を見開き驚いていたが、小さく私の名を口にした。




「麻綾・・・」





「ハァー・・・良かった無事で・・・」



力が抜け、私は壁にもたれてズルズルと座りこんだ。


「どうしたんだ、そんなに慌てて」





湯川さんが立ち上がり私に目線を合わせて跪く。



「…さっき池島さんが学校に迎えに来て…帰ってきたら幾斗がいないからもしかしたら幾斗も怪我したんじゃないかと思ったんですけど・・・良かった・・・・居た」




私はは安堵して幾斗の傍に寄った。




「心配したんだよ。池島さん何も教えてなし、帰ってきたら怪我人が沢山いるし…幾斗がいないからまさかと思って…」



幾斗の隣に座り笑い掛ける。
その時私の目に幾斗の手に握られた物が映った。




「……あれ?黒い椿?…それ幾斗の?」


「いや…」


「偶然かな。今日ね、下駄箱に入ってたんだ。これ・・・」


「ッ!!」



私は鞄の中からそっと白い椿を取り出した。


「ッッ?!…お前ッ、これ入れた奴分かるか?」


「え、と……ごめん、分からない。朝下駄箱に入ってて…、昨日学校出るときは無かったんだけど…」




幾斗はその椿を私の手から奪い取り、ぐしゃりと潰してしまった。


私が言葉を発する前に、幾斗が口を開く。



「黒椿だ・・・」


「え?」


「湯川さん!」



幾斗が慌てた様子で湯川さんに声を掛けると、湯川さんは全て分かっている様で、部屋の外に控えていた部下の人に何事かを話して、その部下の人はどこかへ走って行った




「会頭には連絡した。すぐに返事が来るだろうからそれまで待て」


「はい」



何時になく真剣な顔で会話をする二人に、いつの間にか私も体を強張らせていた。
仕事の邪魔になると思って私は部屋を出ようとした。







ぐいっ


「うわッ!」



腕を引かれ再び座り込む事に…






「な、何っ?」



左手を引っ張った幾斗を見れば、幾斗は眉間に皴を寄せて口を開いた。




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