龍の世界




「目が覚めると、俺は知らない場所にいた」




幾斗はそう、さらりと、まるで何でもないことのように言った。








「俺は皇也さんや柳瀬さんに何も聞かなかった。父さんに捨てられた事実を突きつけられたくなかった……。かと言って俺を誘拐同然で連れてきた皇也さんたちも信用なんて出来なかった。もう全てがどうでもよかくなった…だから言われるがまま力を付けて、組を持ち、麗龍の地位を受け取った」


「うん…」


「でも、すごく虚しかった……ただ毎日が辛くて、怖くて…」


「ぅん…」


淡々と語る幾斗の横で、私は堪えきれずに涙を流した。







「そんな時、黎雅さんに……無理矢理父さんに会わせられた…」


「え……」


「心のどこかでは会いたいと思ってた。でも怖くて会えなかった。そんな俺に、黎雅さんが言ったんだ」










『お前の父親はお前を売った。例えそれが仕方なかったとしてもそれは事実に変わりはない。だが、お前はもう怖がる必要はないだろう?お前は麗龍だ。ここにはお前の居場所がある。裏切った父親に言ってやれ、お前の気持ちを…何を言われようと怖くはない…。お前が帰ってくる場所はちゃんとここにあるんだからな…』










「お兄ちゃん、が…?」


「父さんはもう新しい家族がいて、俺は言ってやったよ。俺を捨てて幸せになったのかって…たったそれだけ…気丈に振る舞って…」







幾斗は私の涙を指先で救いながら笑いかけてきた。






「それだけなのに、おれは一杯一杯で、屋敷に帰ってきて雨の中、門の前で待っていた皇也さんの姿を見たらもう耐えられなくて大泣きしたよ」







クスクスとまるで他人事のように笑う幾斗。
綺麗な笑みなのに、とても静な笑い方だった。









「お前に話を出来ない俺が言う事じゃないけど、いいをじゃないか?聞くのが怖くても…お前に取って俺から黎雅さんの話を聞くって事は、今までお前が見てきた兄としての黎雅さんじゃない。桜千会若桜組の華龍としての黎雅さんだ。きっと全く知らない顔だ…。聞くに耐えない残酷な事だってある…」






幾斗はそう言いながら私の髪を撫でた。









「お前は何も悪くないよ」








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