龍の世界
*****



麻綾を見送り、自室に戻った。


途端に足の力が抜け、俺は畳に座り込む。







「う゛ッ…」





最近頭の奥が、鈍器で殴られているかのように痛む。




不定期に押し寄せる痛みの波に、いつまで周りを騙して行けるか不安になる。

いや、たぶん皆気付いているのだろう。
もともと殆ど学校など行っていなかったから、休むことに関してはいつもの事だが、あの人達のことだ…
俺が騙せる筈がない。






それに、麻綾も変なところで鋭いから、何かしら感じているだろう…



























何も知らない、ただの平和惚けした女だと思ってた…






初めて会ったときも、何も知らないくせに冷静を装う姿が気に入らなかった…


今にも泣きそうな顔をしながら、笑いかけてくる姿に無性に腹が立った…













同情してんじゃねぇよ。



いい子ぶってんじゃねえよ。





兄を殺した奴が目の前にいると言ったら、こいつの化けの皮が剥がれるだろうか…











あの時の俺は、自分を悲劇のヒロインに仕立て上げていた。




だから気付くなんて出来なかった…





今なら、あの時の麻綾がどれほどギリギリのところで自分を保っていたのか分かる。









あいつは、俺を救ってくれる…
いつもいつも欲しい言葉をくれる。




椿を見ると全身で拒否反応を起こしていた体が、あいつが横にいるだけで震えも忘れていた。



何故かなんて分かってる…

過去のトラウマを押さえ込んだこの感情────



それはあなたに教わった事──────









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