龍の世界
あれは俺が中学に上がる少し前…
仕事に少しずつ関わり始めたばかりの頃。
『黎雅さんって、抗争の時、怖いとか思う事ないの?』
『はあ?怖いに決まってんだろうが。正々堂々拳で勝負なんてこの世界じゃねえ無いんだ。ナイフとか銃なんか向けられたら誰だって恐いだろうが』
『でも、黎雅さん一番に突っ込んでくんでしょ?総司さんが言ってたよ』
『あ?ったくあいつは余計な事を…』
『でも怖いの?』
『そりゃ怖いさ。ナイフで刺されたり、銃で撃たれたら痛いだろうが。もしかしたら死ぬかもしれない』
『じゃあどうして一番に突っ込んでくの?』
『あー…まぁ、お前もいつか分かる日が来るかもしれないがな、幾斗。人は大切なものが無いと生きて行けないんだよ』
『大切なもの…』
『人は大切なものを守るために戦ってる。やり方は人によって違うがな…』
『黎雅さんの一番大切なものって何?』
『俺か?…表のも裏のも手はかかるが可愛いからなぁ…どっちかを選ぶのは難しいな…』
『…黎雅さんの大切なものって二つあるの?』
『まぁな。まぁ、お前にもいつか分かる時が来るさ。その時までには俺を倒せる位にならなきゃな』
そんなの無理に決まってる、と眉をよせた俺の眉間にデコピンして、あの人は笑った。
春の近付く夕暮れは、まだ肌寒かったけれど、何故か俺は暖かかく感じた。