龍の世界
背後から近付く音に気付いたのは幾斗だった。
「ッ!」
「幾斗?」
私の背後を睨み付ける幾斗を不思議に思い、私も振り返ろうとした時…
「くっ…」
幾斗は、私を抱き締めるようにしてバイクを飛び降りた。
「ッ!」
ガッシャッーンッッ!!
壮絶と言えるような音が辺りに響いた。
あまりに急すぎて、声も出なかった私を現実に引き戻した幾斗の呻く声。
「う゛、つぅ…」
「幾斗ッ!大丈夫ッ?!」
幾斗は肘を押さえながらも、私を抱く腕を緩めようとはしなかった。
「幾斗ッッ、幾斗ッ?!」
私を庇い、道路に打ち付けられたらしい。
幾斗の白い額を赤が伝っていった。
「幾斗ッ」
支えて抱き起こすと幾斗は再び苦し気に呻いた。
怖くなって、私はパニック状態になりながら叫んだ。
「ったく、轢きゃしねえよ。轢いたらこっちが殺されるからな」
聞いたことのある声だった。
低く、冷たい声。
何で────
何でこんな時に────
何で───ッッ!
恐る恐る私は振り向いた。