龍の世界
幾斗の瞳は力強い光を宿して真っ直ぐ前を見据えていた。
それはお兄ちゃんの四十九日で、目の前の男と出会った時の、何も写さない人形のような姿からはかけ離れていた。
「へぇ…変わったな、麗龍…」
「あぁ…俺はこの世界で変わった。お前達の知る俺はもういない…」
「…」
「俺の世界はお前達の作った檻の中じゃない。俺の世界はここにある」
幾斗は、真っ直ぐ私を見ていた。
その瞳があまりにも真っ直ぐだったから、私も逸らさずに見返すと、幾斗は一度目を閉じて、再びその瞳を晒した。
「俺はもう飼われた鳥じゃない。自由を知った鳥は、二度と鳥籠には帰らない」
そう言い切った幾斗の顔は、私の目に焼き付けられた。
血と土で汚れながらも、その表情はどこかすっきりとして、憂いの晴れた後のようだった。
「フッ…それは違うな、麗しの龍。籠の中の鳥は、籠の外では生きられない。安全な箱庭しか知らない鳥は、決して自由を幸せとは感じない」
男がパチンと指を鳴らすと、建物の影から何人もスーツの男達が出て来た。
「チッ…」
「お前の傷が完全に癒えられると面倒なんだよ…。獲物は弱ったときに狩る。狩りの鉄則だろ」
「…」
周りをじりじりと詰められる。
「幾斗」
「大丈夫だ…」
何を根拠に言うのか…
幾斗は動こうとしない。
私は怖くてどうにかなってしまいそうだった…