龍の世界
「藤堂」
「はい」
「悪いけど、念のため目撃者がいないか調べてくれる?」
幾斗の治療は他の人に任せたのか、柳瀬さんが携帯を片手にこちらに歩いて来た。
「皇也から、麻綾ちゃんに伝言だよ。悪いんだけど、新体操は少しだけ控えて欲しいって」
「え…?」
「もう直ぐ麻綾ちゃん夏休みに入るでしょ?だからそれを利用して幾斗と2人、しばらく本家に移ってもらう事になったから」
「え…本家、ですか?」
「そう。桜千会の本家。この間まで皇也が行ってたんだけど、本家は京都にあるんだ。今は皇也の弟の葎也がいてね、本来なら会頭である皇也が本家にいて、弟の葎也が若桜組を率いるんだけど事情があって、皇也がこちらにいるんだよ」
「いつから、行くんですか?」
「麻綾ちゃんの終業式の夜の新幹線が予約してある。護衛は目立たないように少人数で、藤堂と湯川と、あと二人の部下が数人。それと、これも皇也からの伝言。『幾斗の手綱をしっかり握っておいて下さい』だってさ。俺からもこれはお願いするよ。麻綾ちゃんは幾斗の精神安定剤だから」
「え、と…分かり、ました」
精神安定剤ってどういう事?と思考を巡らしている間に幾斗の治療が終わったらしく、呼ばれたために柳瀬さんとの話は中断された。