龍の世界
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幾斗は頭と腕に包帯を巻き、頬にガーゼ、口元には絆創膏を張られ、不機嫌そうに現れた。






「ずいぶん痛々しい姿になったね」


「大袈裟なんだよ」


「幾斗は軽く見過ぎだよ…良かった…大した怪我しなくて」


「…」







追い詰められるのは怖くて怖くて仕方無かったけど…





何よりも怖かったのは









幾斗がいなくなってしまうかもしれないと言う恐怖













今でも鮮明に思い出す、幾斗の、まるで死んでいるように白い顔色で眠る姿…








ふとした瞬間に頭によぎり、怖くて怖くて







仕方ない─────















「……柳瀬さんはなんて?」


「え?」


「えじゃない。さっき話してただろ?」


「ああ…え、と…しばらく二人で本家に行っててって…皇也さんからの伝言だって…」


「本家、ね…」


「幾斗は行った事あるの?」


「ああ」


「明後日、私の学校が終わったらそのまま行くからって」


「ずいぶん急だな」


「うん…」


「まあ本家なら安全だろうからな…」


「珍しい。幾斗が素直なんて」


「あ゛?」


「何でもないでーす。ほら、早く帰ろ」







私が手を差し出すと、幾斗は呆れたように溜め息を吐いて、それでも私の手を握ってくれた







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