龍の世界
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壊れてしまったバイクは藤堂さんの部下さんに任せ、私たちは柳瀬さんと藤堂さんに付き添われて屋敷に向かっていた。
このベンツは広さもあってのびのびと出来る。
「ありゃあ修理するより新しく買ったほうが安いな」
「もったいないねぇ…あれ、レアものでしょ?」
「別に…」
幾斗は藤堂さんや柳瀬さんの言葉にそっけなく答える。
けど、どこか違和感を覚えた。
「幾斗?」
「何…」
「幾斗、なんか…「あ!そう言えば幾斗。麻綾ちゃんに聞いたと思うけど、明後日から本家に行ってもらうからそのつもりでね。京都駅に葎也が迎えに来るから」
「は?葎也さんが来んの?」
「うん。本人がどうしても来たいって言って聞かなかったんだって」
私の声は柳瀬さんによって遮られてしまった。
幾斗が柳瀬さんの言葉に反応して、私の言おうとした言葉は幾斗には届かなかった。
「葎也さん、忙しいって聞いてたんだけど…」
「まぁいいじゃないか、葎也に会うのも久しぶりだろ?」
葎也さんとは皇也さんの弟で、今は桜千会の本家にいるらしい。
「ああ、麻綾ちゃん。言ってなかったけど本家は着物着用だからね」
「え…?」
助手席に乗る柳瀬さんが振り返ってそう言った。
「着物…ですか?」
「そう。決まりなんだよ。皇也なんて昔からそれが日常だから今でも着物着てるでしょ?あれが一番楽なんだって」
「そうなんですか…」
「麻綾ちゃんの着物は、もう用意されてるからね」
「えっ?」
さり気に言われたセリフに私は目を見開いた。
「皇也がはりきって用意してたから、着てあげてね」
「いえ!私着物なんてありませんから寧ろとても有り難いですけれど…」
「ま、あれは皇也の趣味みたいなものだから好きにさせてあげて。麻綾ちゃんは何の気兼ねもなく着てあげて」
「はい…」
柳瀬さんが前を向き、私も背をシートにもたれさせた。
そしてふっと幾斗の方を見た。
フランス人形のような美貌の横顔は、いつにもまして儚く、弱々しく見えた。
壊れてしまったバイクは藤堂さんの部下さんに任せ、私たちは柳瀬さんと藤堂さんに付き添われて屋敷に向かっていた。
このベンツは広さもあってのびのびと出来る。
「ありゃあ修理するより新しく買ったほうが安いな」
「もったいないねぇ…あれ、レアものでしょ?」
「別に…」
幾斗は藤堂さんや柳瀬さんの言葉にそっけなく答える。
けど、どこか違和感を覚えた。
「幾斗?」
「何…」
「幾斗、なんか…「あ!そう言えば幾斗。麻綾ちゃんに聞いたと思うけど、明後日から本家に行ってもらうからそのつもりでね。京都駅に葎也が迎えに来るから」
「は?葎也さんが来んの?」
「うん。本人がどうしても来たいって言って聞かなかったんだって」
私の声は柳瀬さんによって遮られてしまった。
幾斗が柳瀬さんの言葉に反応して、私の言おうとした言葉は幾斗には届かなかった。
「葎也さん、忙しいって聞いてたんだけど…」
「まぁいいじゃないか、葎也に会うのも久しぶりだろ?」
葎也さんとは皇也さんの弟で、今は桜千会の本家にいるらしい。
「ああ、麻綾ちゃん。言ってなかったけど本家は着物着用だからね」
「え…?」
助手席に乗る柳瀬さんが振り返ってそう言った。
「着物…ですか?」
「そう。決まりなんだよ。皇也なんて昔からそれが日常だから今でも着物着てるでしょ?あれが一番楽なんだって」
「そうなんですか…」
「麻綾ちゃんの着物は、もう用意されてるからね」
「えっ?」
さり気に言われたセリフに私は目を見開いた。
「皇也がはりきって用意してたから、着てあげてね」
「いえ!私着物なんてありませんから寧ろとても有り難いですけれど…」
「ま、あれは皇也の趣味みたいなものだから好きにさせてあげて。麻綾ちゃんは何の気兼ねもなく着てあげて」
「はい…」
柳瀬さんが前を向き、私も背をシートにもたれさせた。
そしてふっと幾斗の方を見た。
フランス人形のような美貌の横顔は、いつにもまして儚く、弱々しく見えた。