BLACK DIAMOND


「いらっしゃいませ」

いつものように笑えているだろうか。
そんな心配を余所に、お客様の列は途絶えることはない。

「ありがとうございました、お次お待ちのお客様どうぞ」

先程から、この台詞を何度繰り返しただろう。次第に自分の悩みが忙しさによって吹っ飛ばされる。

「お待たせ致しました、お品物お預かり致します」

ピッピッとバーコードを機械に読み込ませ、値段を伝えてから、商品を袋に入れる。後はお会計をすれば、今対応したお客様とはまたいつ会うか分からない。

数ヶ月前に、駅の近くに出来た私の新しい職場は、近場のお客様にとって食品売場のついで程度の距離にあり、遠方からのお客様にとってはお目当ての店のついでにあるような、どこにでも存在するような本屋さんである。
そういえば、「本屋なんてどこも同じじゃんか!」と先日少し服装の派手なカップルの女が喚いてた。

本好きにとってみれば、別の空間と思うだけで、ちょっと探検するような気分になるのに。

「ありがとうございました、またお越しくださいませ」

やっと長蛇の列が途切れる。しかし、またいつ列が出来るか分からない。



「はぁー……(小さい袋を補充しなくちゃ)」

レジの下にある補充の山から1つ取り出し、ハサミで包装を開ける。
ハサミを引き出しの中に仕舞い、いつもの指定席に袋の束を置いた。





「Excuse me?」


そう、これが私と彼との出会いの始まりだった。
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