BLACK DIAMOND

『本日もXYZ書店にご来店いただきまして誠にありがとうござ――……。』

プレゼントの包装を承ったとき以外にも、お知らせなんかも店内で放送を行う。セールとか、イベントとか、その他にも必要とあらば。
人によっては聞き取りにくかったりするから、スラスラとあんちょこが読めるのに勿体ない。


『――Thank you for shopping at XYZ Bookstore.We are open from 9:00am till 10:00pm seven days a week. Please relax and enjoy your shopping.Thank you.』


録音したものを再生するだけだったら楽なんだけど、毎回忙しい合間を縫って行っているが、英語でアナウンスするのは私だけ。
日本語より簡略されていてセールの案内もないから簡単なのだけれど、誰も言わない。

そもそも、文章をビジネス英文から拝借したのも私だったけど。


こんなことはオープンしたときからやってたわけじゃない。
何となく私が始めたことで、少し来客するお客様の雰囲気が変わりつつあるけれど。

それも売上のため!って言ったら、きっとあの人のことだから怒るだろう。
「そんなに仕事するの好き?」と問い掛けてきて、子どものように拗ねて。


今頃は何をしているのだろうか。


放送のマイクの電源を落とし、少しだけ目を閉じる。

そして、ゆっくりと踵を返し、私は仕事へと戻った。
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