BLACK DIAMOND


「Yes,sir.」


気が付いた頃には遅かったけれど、自然と答えてしまっていた。

私はやや学んでいたときから空白の時間がある英語を口にしていたのである。


お客様は一瞬きょとんとしたような顔をして、それから続けてもう一度だけ私に洋書を探しているのだと言った。

「Certainly.
 (かしこまりました)
 I'll show you the way.
 (ご案内いたします)」

うろ覚えという表現が正しいような私の英語は何とか通じているようでホッとする。その一方で、まだ勉強を続けておけば良かったと後悔したくなった。


「ありがとう」


洋書のある棚に案内した後、ちょっと日本人に近い発音で言われた感謝の言葉。常識というか、当たり前の行為なのに、ちょっぴり心が温まった気がする。

手元の腕時計で時間を確認するとちょうどお昼休憩の時間であった。

一度更衣室に戻り休憩室に行く途中、今からでも勉強するのは遅くはないと心に決めた。
< 5 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop