先生の秘密
「はい、交代。ネクストバッター椿さん」
額に汗を浮かべ、緑の網越しにとびきりの笑顔を見せる中山が眩しく見える。
「うん」
私は彼と入れ違うように網の中へと入り、バットを握った。
機械にカードを挿し、中山に言われるがまま時速100キロのボタンを押した。
バッターボックスに立つ。
少し離れた場所に設置された画面の中で、有名な野球選手が大きく振りかぶる。
そして画面にあいた穴から、動きに合わせて球が飛び出す。
“ボスッ”
「えっ! うそ! 速い! 怖い!」
野球の球って、こんなに速いものなの?
万が一体に当たったときのことを想像すると鳥肌が立つ。
「大丈夫、大丈夫ー。バット振ってればそのうち当たるって!」
中山のアドバイスに、画面を睨みながら頷く。
ビビっている私に構わず、画面のピッチャーは振りかぶり、球を投げる。
バットを振ってみるが、まったくかすりもしない。
飛んでくる球にバットを当てることすらこんなに難しい競技だとは思いもしなかった。
それでもやみくもにバットを振り続ける。
そして10級を越えた頃。
“キン”
「当たった!」
前には飛ばなかったが、バットには当たった。
たったそれだけなのに、達成感があふれ俄然楽しくなってくる。
「その調子、その調子!」