先生の秘密
昨年の夏の恋を、今になって後悔しつつある。
淳一の言動に振り回され、感情を揺さぶられ、戸惑ってばかり。
美しすぎる思い出に浸りすぎて、厳しい現実に傷つく。
淳一との思い出なんてなければ、淳一と再会しても心は乱れなかったし、新しい恋にも積極的になれたはずだ。
中山の提案を受け入れるのはまだ怖い。
淳一への気持ちはまだ消えない。
ハッキリせずにウジウジしている自分が大嫌いだ。
「椿さん」
中山が私を呼ぶ。
そして口には出さないが、促すように手を差し出す。
私は罪悪感を覚えながら、彼の手を握った。
夕方になってもまだ暑いけれど、中山の手の熱は嫌じゃない。
「へへ」
嬉しそうに照れ笑いする中山の笑顔に、私は救われている。
心がくすぐったい。
このまま私の心を中山色に染め上げて、淳一のことなんか追い出してほしい……というのは、他力本願が過ぎるだろうか。
私たちは駅まで、しっかり手を繋いで歩いた。