先生の秘密
これまでは闘志を表現するような厳ついデザインをイメージしていたから、思いの外かわいらしい案が出て、教室に笑いが響く。
「リンゴ……か」
「そういえば、リンゴのデザインは見たことないよな」
参考にともらった先輩たちの団旗の写真にも、リンゴをモチーフにしたものはない。
しかし、体育祭とはあまり結び付かなかったけれど、赤色から連想されるものとしては典型的な果物だ。
「でもさぁ、リンゴが描いてあるだけの旗って、ダサくね?」
「それな。赤ってだけじゃ旗にはならないよ」
リンゴはボツの方向で話が進んでいく。
しかし私の頭にふと、ひとつのアイデアが降ってきた。
「あのさ!」
私が声をあげると、みんなの視線が一斉に刺さった。
淳一の視線だけが妙に熱く感じるが、気にしないふりをしなければならない。
「ちょっと、思い付いたことがあるんだけど」
「うん。何?」
反応をしてくれたのは茜だ。
私は話を続ける。
「今までの団旗って全部四角形じゃん? それをリンゴの形にしてみるのはどうかな? ルールには縦幅と横幅のサイズ制限があるけど、四角形じゃないとダメだとは、どこにも書いてないよね」
みんなの視線が団旗のルールが記されたプリントに注がれる。
「それに、どんなにカッコいい絵を描いたところで、本番では風になびいて膨らんだりして、絵が歪むんだよね。せっかく頑張って描いた絵なのにそれが伝わりづらいの、もったいないなってずっと思ってた。でも、リンゴの形なら、風で膨らんだらかえって立体感が増すかも」