先生の秘密

これまでは闘志を表現するような厳ついデザインをイメージしていたから、思いの外かわいらしい案が出て、教室に笑いが響く。

「リンゴ……か」

「そういえば、リンゴのデザインは見たことないよな」

参考にともらった先輩たちの団旗の写真にも、リンゴをモチーフにしたものはない。

しかし、体育祭とはあまり結び付かなかったけれど、赤色から連想されるものとしては典型的な果物だ。

「でもさぁ、リンゴが描いてあるだけの旗って、ダサくね?」

「それな。赤ってだけじゃ旗にはならないよ」

リンゴはボツの方向で話が進んでいく。

しかし私の頭にふと、ひとつのアイデアが降ってきた。

「あのさ!」

私が声をあげると、みんなの視線が一斉に刺さった。

淳一の視線だけが妙に熱く感じるが、気にしないふりをしなければならない。

「ちょっと、思い付いたことがあるんだけど」

「うん。何?」

反応をしてくれたのは茜だ。

私は話を続ける。

「今までの団旗って全部四角形じゃん? それをリンゴの形にしてみるのはどうかな? ルールには縦幅と横幅のサイズ制限があるけど、四角形じゃないとダメだとは、どこにも書いてないよね」

みんなの視線が団旗のルールが記されたプリントに注がれる。

「それに、どんなにカッコいい絵を描いたところで、本番では風になびいて膨らんだりして、絵が歪むんだよね。せっかく頑張って描いた絵なのにそれが伝わりづらいの、もったいないなってずっと思ってた。でも、リンゴの形なら、風で膨らんだらかえって立体感が増すかも」

< 109 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop