先生の秘密
みんなの視線がプリントから写真に移る。
どれも風になびいて、傾いたりよれたり歪んだりしている。
特に人の顔をモチーフにした作品は、歪み方が絶妙で滑稽な顔になってしまっている。
これではせっかくカッコよく描いたものも台無しだ。
「凝った形を作るのは難しいけど、リンゴの形ならシンプルだし、学校にもらった布を切ってミシンで縫えば、作れないことないと……思ったんだけど……どうかな」
みんなが反応を示さないので、自信がなくなってきた。
我ながら突拍子もないとは思うが、悪くないアイデアだと思ったのだが。
だんだん恥ずかしくなってきた。
もう諦めて黙ろうと口を閉じる。
するとみんなは思いもよらない反応を示した。
「いいじゃんそれ!」
「リンゴの形とか、絶対他のチームはやらないよね」
「優勝いただきっしょ」
自然と私の案の方向で話がどんどん進み、発案者の私は取り残されてしまった。
私の案を、みんながいいと認めてくれた。
それが嬉しくて、視線をつい淳一の方へと向けてしまった。
目が合うと、自然な笑みが返ってきた。
「椿。お前、さては天才だな」
こんな笑みを向けられたのは昨年の夏ぶりだ。
「今さら気づいたんですか?」
素直な気持ちで彼に笑顔を向けることができたのも、昨年の夏ぶりだ。
私は今、淳一と再会して初めて、無理なく生徒として振る舞えているかもしれない。
夏の間に泣いたりバットを振ったりした成果が、ここで発揮されている。