先生の秘密
――ガラガラガラ
教室の扉が開いた。
「おーい、終了時刻過ぎてるぞ」
入ってきたのは淳一だ。
午後6時を過ぎての作業は禁止されているため、監督の教師として見回りに来たのだろう。
いつの間にかクラスメイトたちは部屋を出てしまっており、残っているのは私ひとりだった。
図らずも淳一とふたりきりになってしまい、心が少しだけ震える。
だけどもう、前ほどは動揺しない。
「すみません、見てるだけです。もう帰りますから」
スケッチブックを手放し、教卓に置く。
絵の具がまだ乾いていないため、閉じることはできない。
淳一がこちらに向かって歩いてきた。
スケッチブックの見やすい、私の横に並ぶ。
懐かしい距離感と身長差に、また心が震えた。
「すげーな。立体的に見える」
「でしょ? こんな配色、素人には思い付きませんよね」
私は生徒。
彼は先生。
距離感を守って、演じる。
「リンゴって言ったのは俺だけどな」
「形をリンゴにするのは私の案ですよ」
いい感じだ。
ちゃんとできている。
意識しないようにはできないけれど、演じることくらいは楽にできるようになってきた。
このまま味わった切なさも忘れてしまえたらいい。
きっとできる。
気持ちの問題は時間が解決してくれると、だんだんわかってきた。