先生の秘密
横目で淳一を見る。
相変わらずの童顔ではあるが、ちゃんと先生の顔をしている。
半袖の白いシャツ。
ネイビーのスラックス。
レザーのベルト。
髪は整える程度に軽くセットされている。
先生スタイルの淳一は、元カレの淳一とは別人だ。
……と、思うようにしてみる。
ふと目が合った。
つい見つめてしまっていた。
「俺の顔に何かついてる?」
「いえ、別に」
「別にて何やねん……あ」
久々に聞く関西訛り。
白々しくもうまくいっていた空気の流れが、一気に変わる。
「せっかく生徒モードでうまく話せてたのに」
「ごめん。気ぃ抜いた」
弁解の言葉も訛っている。
ここにいるのは別人なんかではないと、突き付けられている気分になる。
二人の間に昨年の夏の空気が流れる。
「しっかりしてくださいよ、先生」
「たまたま出ただけやん」
スケッチブックを囲って、私たちの距離はおよそ30センチメートル。
ここまで接近したのは付き合っていた頃以来だ。
「なぁ、さくら。俺さ……」
淳一が何かを言いかけたとき、教室の扉が開いた。
「奥田先生、ここにいたんですか」
女の声が割って入り、会話は中断……いや、中止される。