先生の秘密
「中野先生」
淳一がそう呼んだこの女性は、彼と共にこの高校に赴任した女教師だ。
ゆる巻きのロングヘアーが美女感をいかんなく醸し出しており、口元のほくろが大人の女性を演出している。
街を歩くだけで目立ってしまうほどの美人というわけではないが、彼女からはびしびしと自信を感じる。
「会議、始まりますよ」
彼女は敬語ながら親しげにそう告げた。
「あぁ、そうですね。今行きます」
淳一はやや気まずそうに応えて扉の方へ歩みを進める。
中野先生の視線が私に向いた。
強めのアイメイクから放たれる視線に、悪さを見抜かれたようなばつの悪さを感じる。
悪いことなど何もしていないが、淳一との関係は隠さねばならない。
「作業時間は終わってるはずよ。早く帰りなさい」
視線だけでなく口調も強い。
私が不正……つまり作業終了時刻を越えて作業をしていたとでも思ったのだろうか。
決めつけるような言い方をされるのは、気分がよくない。
「……はい」
ぶっきらぼうに言い放ち、強い歩みで教室を出る。
「お疲れさん。また明日な」
「……さようなら」
早足で荷物のある教室へと戻る。
背後から淳一と中野先生の会話が微かに聞こえて、複雑な気持ちになった。
ふたりは同年代で同僚だ。
互いに唯一の同期とも呼べる存在で、きっと仲はいい。
その先に想像されることに、もやもやしてしまう。
私には彼の隣に並ぶ資格がなくても、彼女にはあるのだと。