先生の秘密
リンゴ型団旗作りは翌日から本格的な製作に入った。
布を切って、ほつれないようミシンで端を縫う。
直線ではないため、それだけでも大変な作業だ。
2日分の作業時間を要し、なんとか巨大なリンゴ型の布が仕上がった。
線を引いて分割し、設計図通りに番号を振る。
上から順に該当する色を作り、塗っていく。
立体感のためには正しい絵の具の調合が責務だ。
カラーチャートを使って慎重に色を調合し、布を赤く染め上げていく。
ヘタの部分は別で製作して最後に貼り付ける予定だ。
「茜! 色足りなくなっちゃった」
「調合するね。何番の色?」
「新聞紙まだある?」
「ここにはもうない。あ、田中くん職員室でもらってきてくれる?」
リーダーの茜はまとめ役で忙しそうだ。
私も私とて、下手部分の製作に奮闘している。
「椿さん、団旗の進み具合はどう?」
赤組の応援団長である中山が様子を見にやって来た。
団長は赤組すべてのリーダーでもある。
「おおむね順調だよ。応援団はどう?」
「うん、こっちもおおむね順調。それじゃ引き続きよろしくな」
「うん。ありがとう」
能力が高く、人望があり、重責を背負っているのに楽しそう。
私は人前に立ったり仕切ったりするのは苦手だから、中山や茜が羨ましい。
私ももっと人前に出られるタイプだったら、今よりも自分に自信が持てたのだろうか。
「うーす。頑張ってるかー?」
「あ、おっくん!」
監督である淳一は、だいたい作業時間の終わり頃に来る。
監督は決められた時刻までに作業を終えるよう声を掛ける程度で、作業にはほとんど関わらない。