先生の秘密
赤組をリードする応援団の男女10人が、装飾を施した赤色のハッピを羽織り、中山を中心にずらりと前に並んだ。
10人はいずれも目立つタイプの生徒で、特に中山の横にいる文系クラスの女子は、学年でいちばん美人だと言われている子だ。
ふと中山と目が合い、彼がにこりと微笑む。
あんな子がすぐ隣にいるのに、私がいいというのだから不思議な気分になる。
「俺たち3年生にとっては、最後のイベントです。明日は楽しんで戦いましょう!」
沸き起こる拍手と歓声。
「絶対優勝しようぜ!」
「オーーー!」
拳を突き上げた中山に、みんなが続く。
私たちがリンゴを作っている間に、彼らがチームをひとつにまとめてくれていたのがわかった。
盛り上がる私たちを見守る教師たち。
ふとその中にいる淳一が見えた。
私たちと一緒に体育祭を楽しむ側ではなく、それを見守る大人として一歩外にいる。
彼が私たちとは違う世界の人間だと突きつけられているようで、こういう集会は好きじゃない。
無意識に彼と触れ合えたあの頃の記憶を呼び起こして否定しようとしてしまい、苦しくなるからだ。
悪い癖だとは思うけれど、私の意識がやめてくれない。
決起集会が終わると、そのまま続いて前夜祭になる。
私たち3年の生徒が、下級生にお菓子や飲み物が振舞うのが我が校の通例だ。
他学年との交流を深め、仲よくなることでチームワークを上げることを目的としている。
「リンゴの旗すごいですね」
「布を形に合わせて裁断したり、縫ったりするの大変そう」
「吊り方も工夫しないと形を保てないし、知力を尽くしてる感じがします」
下級生からこんな声が聞こえてくると、思わず顔が緩んでしまう。
自分が提案したものが想像以上に大変な作業になってしまって、制作メンバーに申し訳ないなと思っていたけれど、頑張ってよかった。