先生の秘密
だけど、彼が教師としてではなく、元カレとして謝っていることだけは伝わってきた。
だから私はあえて、生徒として接していることを強調する。
「別に、先生が私に謝ることなんて何もないでしょう?」
淳一は切な気に顔を歪めた。
どうしてそんな顔をするの。
「あるよ。あるやろ」
イントネーションと言葉が先生モードではなくなった。
いったい何を言い出すつもりなの。
「ちょっと……」
「話しかけるなって言ったこと。それから、なかったことにするって言ったこと」
危うい話題だ。
周囲に人気はない。
しかしその分、彼の声は廊下によく響いた。
「今さらそんな昔のことを謝るなんて、先生、何かあったんですか?」
なんとか当たり障りのない言葉を探して返す。
誰かに聞かれて私たちの本当の関係がバレてはいけない。
淳一の立場を悪くしてしまう。
そんな私の気持ちを無視するように、彼は一方的に話を進める。
「ずっと謝りたかった」
「は? 何言って……」
「俺、自分勝手やった。俺の立場守ることしか考えてへんかった。ごめん」
淳一は私の言葉を遮るように謝って、頭を下げた。