先生の秘密
春に味わった胸の痛みがよみがえる。
目の奥がつんと熱くなり、涙が溜まる。
「意味わかんない。今さら謝られても困るんだけど」
腹の底が戦慄いて、声を震わせてしまった。
涙を我慢するのが下手になってきた気がする。
漏れる前に指で目尻からすくい取る。
淳一は私の様子を見て余計に目を細めたが、必要以上に距離を縮めてきたりはしない。
「さくらのこと、忘れてないのは俺の方やな」
「は?」
「ほんまに生徒として見とったら、あんなこと言わんよな」
これは……まさか。
かつて期待していた展開が頭をよぎる。
勘違いして期待したくない。
もし想像通りなら、ちゃんと言葉にしてほしい。
「どういう意味? ……はっきり言ってよ」
私は声を絞って迫る。
淳一が私を見る目から切なさが伝わってくる。
私の欲しい言葉はもらえないのだと、その表情でわかってしまった。
「言えるわけないやろ」
……やっぱり。
におわせるだけにおわせて。
期待させるだけ期待させておいて。
「なにそれ」
私に何を求めてるの。
「ごめん。でも俺、やっぱり教師続けたいから。せっかく叶った夢をダメにはしたくないから。さくらのことは、諦める」